別館 魑魅魍魎

カニョン探偵事務所/TRANSQUID その5

それで仕方なく また例の映像を見直してみたにょん
"怪物"は一見普通の人間だけど 十本の指が異様に太く それが まるで巨大烏賊の足のように
クネクネと伸びているにょん 時折 口からは黒い液体を吐き出し 伸びた十指の表面からも
似たような液体が垂れ流されているのが分かるにょん
にょんはその怪物の顔を初めてマジマジと見たにょん
「……!?」
怪物の顔は 姿を消していたサキ・ナノレスそっくりだったにょん
青ざめるにょんの顔に気づいて ナカサキ博士が心配そうに尋ねたにょん?
「ん?どうした どうした?カニョン君 怖くなっちゃたの?」
にょんの口から自分でも思いがけないセリフが飛び出したにょん
「ナ ナカサキ博士 あなたのご依頼引き受けたにょん…
だから…警察に通報するのはやめるにょん!」

(「帰りたいのれす!もう家に帰して欲しいのれす!」)
サキは既に"人の言葉"を発せられない身体になってしまっていた
どれだけ叫んでも 耳に響くのはケダモノのような呻き声だけだ
首には鉄の鎖でつながられた首輪が締めつけられている
目の前には 猟人が置いていった黒い液体で満たされた
大きな真鍮のボール皿が一つ …今夜もこれが唯一の食事なのか?
サキは今度こそ この液体に口をつけずに朝を待とうと思った
しかし身体が言う事を聞いてくれない 身体がこの黒い液体を求めている
(「が 我慢が出来ない…」)
サキはまた誘惑に負けた 犬畜生のように皿の"黒いスープ"をペロペロと舐めた
(「おいしいのれす!おいしいのれす!」)
そうして 皿にへばりついた 残りの一滴まで綺麗に舐めきった
自分が調教されているのは分かっていた 猟人は自分を"別の世界"に引き摺り込もうと
しているらしい しかし 助けてくれる人も逃げる手段も見つけられなかった
怖かったのは自分の意思とは関係のない行動を
まるで操り人形のように取っていた時だった…支配されているのだ

空腹が満たされて ふとガラス窓に映る"黒い怪物"の姿を見た
(「う 嘘だ!」)
あれが本当に今の自分なのか?確かに自分は元から色白ではなかった
いつも左側にいたユウカの透き通るような真っ白な肌の色に憧れた事もあった
だけど 生まれたまんまの褐色の肌が結構気に入ってさえいたんだ
闇に溶け入りそうな漆黒の黒 これは私の肌の色じゃない!
サキの目から黒の涙がポタポタと零れ落ちた
(「早くここから助け出して欲しいのれす!サキがサキで全部なくなってしまう前に…
ねえ…誰か!!…ねえ!…カニョン…」)

コ コラッ!うら若き乙女達に何て事をさせてるにょん!
これはあくまでも物語だにょん
本人達をリアルに想像するのは なるべくやめるにょん!